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東京地方裁判所 昭和47年(ワ)11100号 判決

原告 成瀬多賀男

右訴訟代理人弁護士 渡辺泰彦

同 井上庸一

被告 株式会社朝日新聞社

右代表者代表取締役 広岡知男

右訴訟代理人弁護士 渡辺修

同 竹内桃太郎

同 吉沢貞男

同 宮本光雄

同 山西克彦

主文

被告は、原告に対し、金二万五九二六円を支払え。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一当事者の求める裁判

一  原告

主文と同旨の判決および仮執行の宣言。

二  被告

「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」

との判決。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、昭和四四年六月一日、被告との間に雇用契約を締結して、その従業員となり、以来、被告会社東京本社印刷局活版部大組課に勤務しているものであって、昭和四七年六月当時、給与(基準給与および基準外賃金の合計額)として一か月当たり平均金七万七二九一円の支払いを受けていたものである。

2  ところが、被告は、原告に対し昭和四七年八月二日から同年九月一日までの一か月間の停職処分を行ない、その処分に伴なう措置として、原告の同年八月分の給与から、基準給与につき金八四二六円、基準外賃金につき金一万七五〇〇円の合計金二万五九二六円を減額したと主張して、右減額分の給与の支払いをしない。

3  しかし、原告は、被告から右のような停職処分およびそれに伴なう減給処分を受けるべきいわれはないから、原告は、被告に対し、右減額分の給与金二万五九二六円を支払うことを請求する。(なお、訴状では、右金額が金二万六一二六円となっているが、これは計算違いによるものと解する。)

二  請求原因に対する認否

請求原因第1項および同第2項記載の各事実は認める。しかし、同第3項記載の主張は争う。

三  被告の抗弁

1  被告は、日刊新聞である朝日新聞の発行等を目的とする株式会社であって、その基本綱領である朝日新聞綱領は、被告の根本的な経営方針として、「真実を公正敏速に報道」することを宣言している。そして、被告会社の就業規則(以下単に就業規則という。)第一一条は、「従業員は新聞の公器性に鑑み、特に左の各項を守らなければならない。」と規定し、その第四号(項)は、「その他本社に迷惑をおよぼすような行いをしない。」と規定しており、次に、従業員の処罰に関し、同規則第七三条第一項は、「従業員が左の各号の一に該当する場合は、審議の上、その軽重に応じ、戒告、譴責、減給、停職または退社などの処分を行う。」と規定し、その第二号は、「故意または重大な過失によって本社の経営方針と反する行為をしたとき」と、第六号は、「就業規則に反し、従業員としての義務を履行せず職務を怠ったとき」と、第一二号は、「他人に危害、暴行、強迫その他不都合な行為があったとき」と、第一三号は、「故意または不注意で本社の建物施設を破損し、あるいは金銭上の損害を与えたとき」と、第一五号は、「その他前各号に準ずる行いのあったとき」とそれぞれ規定し、さらに、同規則第七四条第三項は、「停職とは、期間を定めて職務を停止するとともに、その期間は月収額の十分の四を超えない範囲内で給与を減額し出社せしめないことをいう。」と規定している。

2  ところで、原告には、次の第3項において述べるとおり、就業規則第七三条第一項第二号、第六号、第一三号および第一五号にそれぞれ該当する事由が生じたので、被告は、昭和四七年六月二七日、原告に対し停職処分およびそれに伴なう減給処分を行なうことを決定し、その後、原告の所属する朝日新聞労働組合との間の労働協約に基づく苦情処理手続をも経由したうえ、同年八月一日、原告に対し、原告が請求原因第2項において主張するとおりの停職処分および減給処分を行なう旨の意思表示をしたものである。

3(一)  被告会社東京本社業務局発送部(東京都千代田区有楽町所在)は、同本社印刷局で印刷される朝日新聞の朝刊第七版ないし第一三版(但し、第一〇版は欠版)および夕刊第一版ないし第三版を、関東地方一円の地域をはじめ、青森、秋田、山形、新潟等の各県下へ発送することを主たる業務としているが、昭和四七年六月当時における被告の新聞発送業務の概要は、次のとおりであった。

(1) 東京本社社屋一階にある輪転室で印刷された新聞は、折り機にかけられ一部二四頁の新聞となったうえ、搬送装置により同社屋の二階にある発送室に送り込まれる。発送室に送り込まれた新聞は、自動部数読取装置により一〇〇部単位にまとめられ、同所に待機している発送作業員により包装紙で包装され、バンドでキ字型に結束されたうえ、メインコンベアベルト(以下、メインベルトという。)上に乗せられる。

(2) メインベルトに乗せられた新聞の梱包は、ループコンベアを通って自動的に東京本社社屋一階にある新聞積込口に流れていく。新聞積込口は、AカウンターおよびBカウンターの二か所からなっており、Aカウンターには一番から五番までの積込口が、また、Bカウンターには六番から八番までの積込口がそれぞれ設けられている。そして、それらの各積込口には、メインベルトから分岐したミニコンベアベルト(以下、ミニコンという。)が突き出ており、メインベルトによって流れてきた新聞の梱包は、作業員が分岐打鍵盤を操作するなどの方法により、ミニコンを通って、新聞発送の目的地に応じて区分された各積込口に流れていく。

(3) AカウンターおよびBカウンターの各積込口には、新聞輸送用のトラックが待機しており、ミニコンを通って流れてきた新聞の梱包は、荷扱い作業員の介添によりトラックの荷台に整理して積み込まれる。そして、朝刊第七版および第八版に関していえば、積込みが終ると、トラックによって、国鉄の上野駅または隅田川駅まで運送され、さらに、国鉄によって、各目的地に輸送され、各新聞販売店に届けられる。

(4) なお、右のトラックによる新聞の梱包の運送が遅れると、国鉄の上野駅または隅田川駅における列車への積込みが不可能になり、その結果、目的地の新聞の販売店ないし購読者への遅配または欠配を引き起こす危険性も生じるので、新聞の梱包のトラックへの積込みは、迅速、確実に行なうことが要求される。

(二)  被告は、従来、ミニコンを通って各積込口に流れてくる新聞の梱包をトラックの荷台に整理して積み込む業務(以下、荷扱い業務という。)を自らの従業員によって行なうとともに、トラックによる新聞の梱包の運送業務を訴外新聞輸送株式会社(以下、新聞輸送という。)ほか数社の運送業者に委託してきたが、昭和四四年一二月二五日ごろ以降、荷扱い業務の一部を新聞輸送等に委託し、さらに、昭和四六年二月以降、新聞輸送の固定配車および被告がとくに指定したトラックへの積込みに関する荷扱い業務を訴外明和産商株式会社(以下、明和産商という。)に請け負わせることにした。そして、明和産商は、その後、新聞の梱包の積込時間には、各積込口に二名一組の作業員を配置して、右の荷扱い業務に従事してきた。しかし、被告が明和産商に右の荷扱い業務を請け負わせるようになった後も、ミニコンの運行管理、トラックの配車指示等の業務は、すべて被告が自ら行なっていたのであり、したがって、メインベルトとミニコンの間に設置されたガラススクリーンも被告の業務と明和産商等の業務とを分離するためのものではなかった。

(三)  ところで、明和産商の従業員によって組織された明和産商労働組合(昭和四七年六月当時の組合員数は六八名。以下、明和労組という。)は、明和産商に対し賃料の値上げ等を要求して、昭和四七年六月四日朝日新聞の朝刊第七版ないし第一三版の発送時間帯を含む午後六時から翌五日午前五時三〇分までの間、全面ストライキを実施したが、その際、明和労組の組合員およびこれを支援する外部団体員らは、四日午後六時二二分ごろから同六時五一分ごろまでにわたる第七版帯および同日午後八時二分ごろから同八時四五分ごろまでにわたる第八版帯において、AカウンターおよびBカウンター上でスクラムを組み、ピケを張り、ミニコンを通って流れてくる新聞の梱包にビラを挾むなどして、被告が自らの職制によって行なおうとした荷扱い業務を実力をもって妨害した。そして、その概要は、次のとおりである。

(1) 明和労組の委員長は、昭和四七年六月四日午度五時五五分ごろ、被告の発送部長に対し、明和労組が同日午後六時から翌五日午前五時三〇分までの間明和産商に対し全面ストライキを実施する旨を通知してきた。この通知を受けた被告は、直ちに、待機していた被告の職制に対し、AステーションおよびBステーション(AカウンターおよびBカウンターのある場所)に赴き、荷扱い業務に支障が生じないよう配慮することを指示するとともに、国鉄の上野駅および隅田川駅における列車への積込み作業にも支障が生じないよう各駅に二名ずつの職制を配置した。

(2) 明和労組の組合員および支援の外部団体員ら約六十数名は、六月四日午後五時三〇分ごろから、Aステーションにおいて集会を開いていたが、午後六時二二分ごろ第七版の印刷開始のベルが鳴ると同時に、組合員ら約二十数名が、Aカウンター上に上り、一列横隊になってスクラムを組み、ピケを張った。そのため、Aカウンターに配置されていた被告の職制は、明和労組の組合員らとの間にトラブルが発生するのをおそれて、荷扱い業務に従事することができず、荷物を整理して積み込めば通常一台に一四〇個位の梱包を積載しうるトラックも、七〇個位の梱包を積載しただけでAステーションを出発せざるをえなかった。のみならず、明和労組の組合員らの一部は、ミニコンの伸縮スウィッチを操作してミニコンをカウンター側に引き戻したり、ミニコン上の梱包を押さえつけたりなどしたため、新聞の梱包がトラックの荷台の後部で小山のようになったり、その一部が荷台の外にこぼれ落ちたりすることもあった。他方、Bカウンターにおいては、最初から被告の職制が荷扱い業務に従事していたが、間もなく、明和労組の組合員ら五、六名が駆け付け、被告の職制に対し、トラックから出ろ、荷扱いを止めろなどと大声で怒鳴りつけたため、被告の職制は、紛争の拡大をおそれて、しばしば荷扱い業務を中止せざるをえなかった。さらに、その後集った明和労組の組合員および外部団体員ら十数名は、Bカウンター七番積込口のミニコンのスウィッチを切ったり、被告の職制を取り囲んだり、ミニコンの両側に立ち並んだりしたほか、ミニコン上の梱包を持ち上げたり押さえつけたりして、結束用のバンドの隙間にビラを挾んだため、Bカウンターの積込作業も混乱に陥った。そして、このような混乱状態は、第七版の印刷の終了する午後六時五〇分過ぎごろまで続いた。

(3) その後、トラックステーションで集会を開いた明和労組の組合員および支援の外部団体員らは、六月四日午後八時二分ごろから第八版の印刷が開始されると、再びAカウンターおよびBカウンター上に上り、スクラムを組み、ピケを張った。とくに、Bカウンターにおいては、明和労組の組合員および支援の外部団体員ら約三〇名が、三台のミニコンの両側に五名位ずつ立ち並んでスクラムを組み、ピケを張って、被告の職制が近寄れないような気勢を示し、被告の職制が荷扱い業務を始めたり、カウンター上に落ちた梱包を拾い上げたりすると、これを取り囲み、実力で作業を妨害した。そして、ミニコン上を新聞の梱包が流れてくると、第七版の場合と同様、梱包を持ち上げたり押さえつけたりして、結束用のバンドの隙間にビラを挾み、梱包の流れを著しく渋滞させ、被告の職制がすこしでも荷台上の梱包を整理しようとすると、トラックから出ろなどと大声で怒鳴りつけたり、その作業衣を引張ったりしたほか、随時ミニコンの駆動スウィッチを切ったり、ミニコンを逆転させたりした。その結果、新聞の梱包は、荷台の外に一せいにこぼれ落ちたり、土足で踏みつけられたりして、所定の個数をトラックに積み込むことは全く不可能になった。とくに、第八版の印刷部数は、第七版の印刷部数が一〇万部であるのに比し、その二倍に近い一八万部にも及んでいたため、発送現場のメインベルト付近に取り残されて積み上げられた梱包は約五五〇個にも達したほか、上野駅に運ばれるべき梱包七個が隅田川駅に運ばれたり、上野駅から新潟県下に送った梱包四個が行方不明になったりした。そして、以上のような混乱状態は、午後八時四五分ごろまで続いた。なお、その間、被告の職制は、再三にわたり、明和労組の組合員および支援の外部団体員らに対し、荷扱い業務の妨害を中止するように注意、警告したが、明和労組の組合員および外部団体員らは、これを一蹴したばかりか、かえって実力で荷扱い業務を妨害する挙に出た。

(4) なお、以上の荷扱い業務の妨害行為ないし混乱の結果、当初に予定していたトラックに所定の個数の梱包を積み込むことができなかったため、被告は、第七版につき五台、第八版につき七台のトラックを増車して、新聞の梱包の運送をはかり、新聞の遅配等の防止に対処せざるをえなかった。しかし、それでもなお多数の梱包の積み残しが出た。

(四)  原告は、昭和四七年六月四日、その勤務時間である午前一〇時から午後五時まで被告会社で勤務した後、午後六時ごろからAカウンターおよびBカウンター付近に赴き、第七版の印刷終了後トラックステーションで開かれた明和労組の組合員および支援の外部団体員らの集会に参加し、第八版の印刷開始後は、明和労組の組合員および外部団体員らとともに、Bカウンターにおけるスクラムに加わるなどして、終始積極的に、右組合員らによる被告の荷扱い業務の妨害行為に加担したが、その概要を述べると、次のとおりである。

(1) 原告は、明和労組の組合員および支援の外部団体員らが六月四日の朝刊第七版帯および第八版帯において被告の職制による荷扱い業務を実力で妨害する挙に出ることを事前に知っていながら、同日午後六時ごろからAカウンターおよびBカウンター付近に赴き、同所を徘徊して、右組合員らがスクラムを組み、ピケを張る様子を眺めていた。

(2) 次いで、原告は、同日午後六時五〇分過ぎごろからトラックステーションで開かれた集会に参加したうえ、激越な調子で、明和労組の春闘を支持する旨の演説を行なった。

(3) さらに、原告は、同日午後八時二分ごろ第八版の印刷が開始されるや、明和労組の組合員および外部団体員らとともに、Bカウンター八番積込口のミニコンの付近で、スクラムを組み、ピケを張り、被告の職制が荷扱い業務を始めたり、カウンターに落ちた梱包を拾い上げたりすると、これを取り囲み、実力で作業を妨害した。また、ミニコン上を新聞の梱包が流れてくると、右組合員らとともに、梱包を持ち上げたり押えつけたりして、結束用のバンドの隙間にビラを挾み、梱包の流れを渋滞させた。なお、このような荷扱い業務の妨害行為に対し、被告の職制は、再三にわたり、その妨害行為を中止するように注意、警告したが、原告も、この注意、警告を全く聞き入れなかった。

(五)  原告の以上の行為、とくに昭和四七年六月四日午後八時二分ごろ以降における行為は、就業規則第七三条第一項第二号、第六号、第一三号および第一五号に規定する各処分事由にそれぞれ該当する。すなわち、

(1) 朝日新聞綱領は、被告の根本的な経営方針として、「真実を公正敏速に報道」することを宣言しているが、取材、編集、印刷、発送等被告会社の営業活動はすべて右経営方針に従って遂行される必要があるのであって、いかに内容のすぐれた新聞が作成されても、敏速な発送業務によりこれが直ちに購読者の手許に届けられるのでなければ、報道活動の意味は皆無に帰する。しかるに、原告は、前記のとおり、明和労組の組合員および外部団体員らとともに、スクラムを組み、ピケを張り、実力をもって、被告の職制による荷扱い業務、すなわち新聞発送業務を妨害したものであるから、これは、「故意または重大な過失によって本社の経営方針と反する行為をした」ものにほかならず、就業規則第七三条第一項第二号に該当する。

(2) 被告会社の従業員は、雇用契約上、勤務時間の内外を問わず、就業規則第一一条に規定するとおり、「新聞の公器性に鑑み」、「本社に迷惑をおよぼすような行いをしない」義務を負っているものと解すべきところ、原告は、被告会社の従業員でありながら、前記のとおり、被告の職制による荷扱い業務を妨害し、被告に迷惑を及ぼす行為をしたものであるから、これは、「就業規則に反し、従業員としての義務を履行」しなかったものにほかならず、就業規則第七三条第一項第六号に該当する。

(3) 原告が、明和労組の組合員および外部団体員らとともに、行なった前記の荷扱い業務の妨害行為の結果、被告は、第八版帯だけでも、七台のトラックを増車して、余分の費用を支出することを余儀なくされ、金銭上の損害を被った。したがって、原告は、「故意または不注意で」被告に対し「金銭上の損害を与えた」ものであり、就業規則第七三条第一項第一三号に該当する。

(4) さらに、原告は、前記のとおり、明和労組の組合員および外部団体員らと共同して、スクラムを組み、ピケを張って、被告の職制による荷扱い業務を妨害したものであるから、これは、就業規則第七三条第一項第一二号に規定する「他人に危害、暴行、強迫その他不都合な行為」に準ずる行為があったときに該当するというべきであり、したがって、同条同項第一五号に該当する。

(六)  そこで、被告は、原告の以上の行為について慎重に審議した結果、原告に対し、原告が請求原因第2項において主張するとおりの停職処分およびそれに伴なう減給処分を行なうことを決定したものである。

四  抗弁に対する認否

1  抗弁第1項記載の事実のうち、朝日新聞綱領が被告の経営方針として被告の主張するような事項を宣言していることは知らないが、その余の事実は認める。

2  抗弁第2項記載の事実のうち、原告につき被告の主張する就業規則の各規定に該当する事由が生じたということは争うが、その余の事実は認める。

3(一)  抗弁第3項の(一)記載の事実のうち、(4)記載の事実(主張)は争うが、その余の事実は認める。トラックによる新聞の梱包の運送が遅れ、列車への積込みが不可能になった場合には、新聞発送の目的地へ向けて直送のトラックが出されることになっているから、列車への積込みが不可能になったとしても直ちに新聞の購読者への遅配または欠配を引き越こすものではない。

(二)  抗弁第3項の(二)記載の事実のうち、明和産商が被告から請け負った業務の内容およびメインベルトとミニコンの間に設置されたガラススクリーンの役割が被告主張のとおりであることは争うが、その余の事実は認める。明和産商が被告から請け負った業務の中には、各積込口に流れてくる新聞の梱包をトラックの荷台に整理して積み込む業務、すなわち荷扱い業務のほかに、新聞の梱包を積み込んだトラックに乗ってその梱包を都内の各駅および新聞販売店に届ける業務も含まれており、かつ、本件で問題になっている朝刊第七版および第八版に関する荷扱い業務はそのすべてを明和産商が請け負っていた。また、メインベルトとミニコンの間に設置されたガラススクリーンは、被告の業務と明和産商等の下請業者の業務との範囲を画するものであって、ガラススクリーンの内側では被告の従業員が、その外側では下請業者の従業員が、ミニコンの操作を含むすべての業務を行なっていた。

(三)  抗弁第3項の(三)記載の事実のうち、明和労組の組合員および支援の外部団体員らが実力をもって被告の職制による荷扱い業務を妨害したという点は争い、その余の事実は認める。なお、その(1)ないし(4)記載の事実についての認否は次のとおりである。

(1) (1)記載の事実のうち、明和労組の委員長が昭和四七年六月四日(但し、時間は午後六時二〇分である。)被告の発送部長に対し被告の主張するとおりのストライキ実施の通知をしたことは認めるが、その余の事実は知らない。

(2) (2)記載の事実のうち、明和労組の組合員および支援の外部団体員らが六月四日第七版の印刷開始前にAステーションにおいて集会を開いたこと(但し、参加人員は約四〇名であり、集会開始時間は午後五時五〇分ごろである。)、右組合員ら約二五名が同日午後六時二二分ごろからAカウンターに上り、スクラムを組みピケを張ったこと、Aカウンターにおいて、新聞の梱包がトラックの荷台の後部で小山のようになったり、その一部が荷台の外にこぼれ落ちたりしたことがあったこと、Bカウンターにおいては、被告の職制が荷扱い業務に従事していたことは認めるが、その余の事実は否認する。第七版帯におけるピケは、明和労組の組合員のみによって行なわれ、かつ、Aカウンターでのみ行なわれた。また、右ピケは、平穏のうちに行なわれ、被告の職制との間にトラブルは生じなかった。

(3) (3)記載の事実のうち、明和労組の組合員および支援の外部団体員らが六月四日第七版の印刷終了後の午後六時五〇分ごろからAステーションで集会を開いたこと、右組合員および外部団体員らが同日午後八時五分ごろからAカウンターおよびBカウンター上に上り、スクラムを組みピケを張ったこと、Bカウンターにおいては、約二〇名が三台のミニコンの両側に三、四名位ずつ立ち並んで被告の職制の介入に備えたこと、そして、ミニコン上を新聞の梱包が流れてくると、梱包の結束用のバンドの隙間にビラを挾んだこと、ミニコンの駆動スウィッチを四、五分間切ったことがあること、新聞の梱包の一部が荷台の外にこぼれ落ちたこと、右組合員および外部団体員らによるピケが午後八時四五分ごろまで続いたことは認めるが、その余の事実は否認する。第八版帯におけるピケによっても、混乱は全く生じなかった。

(4) (4)記載の事実は争う。

(四)  抗弁第3項の(四)記載の事実のうち、原告が昭和四七年六月四日午前一〇時から午後五時まで被告会社で勤務したこと、午後六時三〇分過ぎごろからAカウンター付近に行き、第七版の印刷終了後トラックステーションで開かれた明和労組の組合員および外部団体員らの集会に参加したこと、午後八時五分ごろから外部団体員らとともにBカウンターにおけるスクラムに加わったことは認めるが、その余の点は争う。なお、その(1)ないし(3)記載の事実についての認否は次のとおりである。

(1) (1)記載の事実のうち、原告が六月四日午後六時三〇分過ぎごろからAカウンター付近に行き、明和労組の組合員らによるピケの様子を眺めていたことは認めるが、その余の事実は争う。

(2) (2)記載の事実のうち、原告が同日午後六時五〇分ごろからAステーションで開かれた集会に参加し、明和労組のストライキを支持する挨拶をしたことは認めるが、その余は争う。

(3) (3)記載の事実のうち、原告が同日午後八時五分ごろから同四五分ごろまでの間外部団体員らとともにBカウンター八番積込口のミニコン付近でスクラムを組み、ピケを張ったこと、その間、ミニコン上を新聞の梱包が流れてくると、結束用のバンドの隙間にビラを挾んだこと(但し、そのビラの数は一〇枚位であった。)は認めるが、その余の事実は争う。なお、原告は、明和労組からの要請を受けて、右ピケに参加し、終始、明和労組の指揮と統制に従い行動したものである。

(五)  抗弁第3項の(五)記載の主張は争う。

(六)  抗弁第3項の(六)記載の事実のうち、被告が原告に対しその主張するとおりの停職処分およびそれに伴なう減給処分を行なうことを決定したことは認める。

五  原告の再抗弁

1  昭和四七年六月当時のAカウンターおよびBカウンターにおける荷扱い業務は、明和産商等が被告からこれを請け負っていたものであって、被告の業務ではなかった。とくに本件で問題になっている朝刊第七版および第八版に関する荷扱い業務は、専ら明和産商がこれを請け負っていたものである。そして、被告の業務の作業場所と明和産商等の業務の作業場所とは、メインベルトとミニコンの間に設置されたガラススクリーンにより画然と区別されていた。したがって、被告の職制が明和産商に代って右荷扱い業務を行なっているところを明和労組の組合員および支援の外部団体員らがスクラムを組みピケを張るなどして妨害したとしても、被告の業務を妨害したことにはならないというべきである。したがってまた、右ピケ等に参加した原告も、被告からその責任を問われる理由はないといわなければならない。

2  昭和四七年六月当時のAカウンターおよびBカウンターにおける荷扱い業務が、明和産商等の業務であると同時に、被告の業務であったとしても、同月四日の朝刊第七版帯および第八版帯において被告の職制が行なった荷扱い業務は明和労組の明和産商に対するストライキへの介入行為(スト破り行為)であった。すなわち、被告は、明和産商の前身である有限会社井上商事が被告から荷扱い業務を請け負っていた当時から、請負業者の従業員の労働組合のストライキに際し、請負業者に対し、スキャッブを集めて荷扱い業務を行なうよう要請したり、自己の職制または従業員をスキャッブとして提供したりするなど、スト破り行為を繰り返してきた。また、被告は、以前から、明和労組のストライキにより明和産商が被告から請け負っている荷扱い業務が履行されなかった場合にも、何ら請負代金を減額することなく、明和産商に対しその全額を支払ってきたし、昭和四七年六月四日の明和労組のストライキの場合にも、これまでと同様、明和産商に対し請負代金の全額を支払い、そのストライキに介入した。したがって、被告は、明和労組のストライキとの関係においては、明和産商と同列に立つ当事者であったというべきであるから、明和労組の組合員および支援の外部団体員らがピケを張るなどして被告の職制による荷扱い業務を阻止したとしても、それは明和労組の争議行為として正当な行為というべきである。したがってまた、明和労組の正当な争議行為を支援するためそのピケ等に参加した原告の行為も、正当なものであって、何ら違法とされるべきものではない。

3  仮に、明和労組の組合員および支援の外部団体員らによる右ピケ等の行為が被告に対する関係で違法であるとしても、原告は、明和労組の要請によりそのピケに参加し、終始、明和労組の指揮と統制に従い行動したものにすぎないのであるから、その責任は、明和労組のみが負うべきであって、原告がこれを負うべきいわれはない。

六  再抗弁に対する認否

1  再抗弁第1項記載の事実のうち、昭和四七年六月当時のAカウンターおよびBカウンターにおける荷扱い業務は明和産商等がこれを請け負っていたものであり、朝刊第七版および第八版に関する荷扱い業務は専ら明和産商がこれを請け負っていたものであること、メインベルトとミニコンの間にガラススクリーンが設置されていたことは認めるが、その余の事実および主張は争う。AカウンターおよびBカウンターにおける荷扱い業務は、本来的には被告の業務であって、明和産商等が被告からこれを請け負うことにより、その限りにおいて明和産商等の業務となりうるにすぎない。したがって、明和産商等がその請負業務を履行しない場合には、被告は、自らまたは第三者に委託して、その業務を行なうことができるのである。また、メインベルトとミニコンとの間に設置されたガラススクリーンは、何ら被告の業務の作業場所と明和産商等の業務の作業場所とを区別するためのものではない。

2  再抗弁第2項記載の事実のうち、被告が、以前から、明和労組のストライキにより明和産商が被告から請け負っている荷扱い業務が履行されなかった場合にも、何ら請負代金を減額することなく、明和産商に対しその全額を支払ってきたこと、昭和四七年六月四日の明和労組のストライキの場合にも、被告が明和産商に対し請負代金の全額を支払ったことは認めるが、その余の事実および主張は争う。被告は、明和労組のストライキにより明和産商がその請負業務を履行しなかったため、被告自身の新聞発送業務に支障が生じるのを回避する目的でその職制により荷扱い業務を代行したものであって、明和労組のストライキに介入する目的で荷扱い業務を行なったものではない。また、被告が、明和労組のストライキにより明和産商がその請負業務を履行しなかった場合にも、明和産商に対し請負代金の全額を支払ったのは、減額すべき請負代金の金額の算出が困難であるなどの理由によるものであって、これをもって、被告が明和労組のストライキに介入したと評価すべきものではない。被告は、明和労組のストライキとの関係においては、明和産商とは無関係な純然たる第三者の立場に立っていたものである。

3  再抗弁第3項記載の事実および主張は争う。

第三証拠関係≪省略≫

理由

一  請求原因第1項および同第2項記載の各事実は、当事者間に争いがない。

二1  そこで、被告の抗弁について判断するに、まず、抗弁第1項記載の事実は、朝日新聞綱領が被告の経営方針として被告の主張するような事項を宣言している点を除いて、当事者間に争いがなく、そして、≪証拠省略≫によれば、朝日新聞綱領は右のような事項を宣言していることを認めることができる。また、抗弁第2項記載の事実は、原告につき被告の主張するような就業規則の各規定に該当する事由が生じたという点を除いて、当事者間に争いがない。

2(一)  そこでさらに、抗弁第3項記載の事由の存否について判断する。

(二)  まず、被告会社東京本社業務局発送部(東京都千代田区有楽町所在)が、被告の主張するとおりの新聞を、被告の主張する場所へ発送することを主たる業務としていること、昭和四七年六月当時における被告の新聞発送業務の概要が抗弁第3項の(一)の(1)ないし(3)記載のとおりであったことは、当事者間に争いがなく、そして、≪証拠省略≫によれば、被告の新聞発送業務は、詳細に定められた時間表に従って行なわれる業務であり、とくに朝刊第七版および第八版に関しては国鉄の上野駅または隅田川駅における所定の列車の発車時刻に間に合わせなければならない業務であって、もしそれが遅れると、目的地の新聞の販売店ないし購読者への遅配または欠配を招きかねないものであるため、その業務の過程において行なわれる新聞の梱包のトラックへの積込みの業務も、極めて制限された時間内に迅速かつ確実に行なわなければならないものであることが認められ、この認定に反する証拠はない。

(三)  次に、被告は、従来、荷扱い業務を自らの従業員によって行なうとともに、トラックによる新聞の梱包の運送業務を新聞輸送ほか数社の運送業者に委託してきたが、昭和四四年一二月二五日ごろ以降、荷扱い業務の一部を新聞輸送等に委託し、さらに、昭和四六年二月以降、新聞輸送の固定配車および被告がとくに指定したトラックへの積込みに関する荷扱い業務を明和産商に請け負わせてきたこと、明和産商は、その後、新聞の梱包の積込時間には、各積込口に二名一組の作業員を配置して、右荷扱い業務に従事してきたこと、しかし、被告は、その後も、ミニコンの運行管理、トラックの配車指示等の業務を自ら行なってきたことは、当事者間に争いがなく、なお、≪証拠省略≫によれば、明和産商は、被告から、右荷扱い業務のほかに、新聞の梱包を積み込んだトラックに乗ってその梱包を都内の各駅や新聞販売店に届ける業務等をも請け負っていたことを認めることができる。

(四)  ところで、明和労組(昭和四七年六月当時の組合員数は六八名。)が、明和産商に対し賃料の値上げ等を要求して、昭和四七年六月四日午後六時から翌五日午前五時三〇分までの間ストライキを実施したこと、その際、明和労組の組合員およびこれを支援する外部団体員らが、四日午後六時二二分ごろから同六時五一分ごろまでにわたる朝刊第七版帯および同日午後八時二分ごろから同八時四五分ごろまでにわたる朝刊第八版帯において、カウンター上でスクラムを組み、ピケを張ったことは、当事者間に争いがなく、そして、≪証拠省略≫によれば、明和労組の右ストライキは、同労組が賃料の値上げ等の要求を掲げて同年五月一七日、同月二三日、同月二七日および同年六月四日の四回にわたり行ってきた時限ストライキの一環として実施されたものであること、六月四日のストライキの際に明和労組の組合員および支援の外部団体員らがカウンター上で右のようなピケを張るという方針とスケジュールは、前日の同月三日に行なわれた明和労組と支援の外部団体員との合同執行委員会において予め決定されていたものであることを認めることができ、この認定に反する証拠はない。そして、同月四日の朝刊第七版帯および第八版帯におけるストライキおよびピケ等実施の状況および経過は、次のとおりである。

(1) まず、明和労組の委員長が昭和四七年六月四日第七版の印刷開始前に被告の発送部長に対し被告の主張するとおりの内容のストライキを実施する旨の通知をしたことは、当事者間に争いがなく、そして、≪証拠省略≫によれば、右通知を受けた被告は、直ちに、予め待機させていた被告会社の発送部の職制をAステーション(五名)およびBステーション(六、七名)に赴かせ、ストライキがなければ明和産商の従業員が行なうべき荷扱い業務を代って行なうよう指示するとともに、国鉄の上野駅および隅田川駅における列車への積込み作業にも支障が生じないよう各駅に二名ずつの職制を配置したこと、明和労組は、その後、右通知のとおりのストライキを実施し、同日の第七版帯以降の荷扱い業務に関する労務の提供を全面的に拒否したことを認めることができ、これに反する証拠はない。

(2) 次いで、明和労組の組合員および支援の外部団体員らが六月四日第七版の印刷開始前にAステーションにおいて集会を開いたこと(但し、参加人員および集会開始時間については、多少の争いがある。)、右組合員ら約二五名が同日午後六時二二分ごろからAカウンター上に上り、スクラムを組みピケを張ったこと、Aカウンターにおいて、新聞の梱包がトラックの荷台の後部で小山のようになったり、その一部が荷台の外にこぼれ落ちたりしたことがあったこと、Bカウンターにおいては、被告の職制が荷扱い業務に従事していたことは、当事者間に争いがなく、そして、これらの争いのない事実と、≪証拠省略≫を総合すれば、同日の第七版帯における明和労組の組合員らによるピケ等の行為および被告の職制との間の紛争の状況は、ほぼ被告が抗弁第3項の(三)の(2)において主張するとおりであったことを認めることができ(る。)≪証拠判断省略≫

(3) さらに、明和労組の組合員および支援の外部団体員らが六月四日第七版の印刷終了後の午後六時五〇分ごろからAステーションで集会を開いたこと、右組合員および外部団体員らが同日午後八時五分ごろからAカウンターおよびBカウンター上に上り、スクラムを組みピケを張ったこと、Bカウンターにおいては、約二〇名が三台のミニコンの両側に三、四名位ずつ立ち並んで被告の職制の介入に備えたこと、ミニコン上を新聞の梱包が流れてくると、明和労組の組合員らが梱包の結束用のバンドの隙間にビラを挾んだこと、右組合員らがミニコンの駆動スウィッチを四、五分間切ったこと、新聞の梱包の一部が荷台の外にこぼれ落ちたこと、右組合員および外部団体員らによるピケが午後八時四五分ごろまで続いたことは、当事者間に争いがなく、そして、これらの争いのない事実と、≪証拠省略≫を総合すれば、同日の第八版帯における明和労組の組合員および外部団体員らによるピケ等の行為ならびに被告の職制との間の紛争の状況も、ほぼ被告が抗弁第3項の(三)の(3)において主張するとおりであったことを認めることができ(る。)≪証拠判断省略≫

(4) そして、≪証拠省略≫によれば、明和労組の組合員および外部団体員らのピケ等による被告の荷扱い業務に対する妨害行為の結果、被告は、当初予定していたトラックに所定の個数の梱包を積み込むことができなかったため、通常は第七版および第八版を通じて一九台のトラックで新聞の梱包の運送をすませていたところを、さらに第七版につき五台、第八版につき七台のトラックを増車して、新聞の遅配等の防止に対処せざるをえなかったこと、しかし、それでもなお多数の梱包の積み残しが出たことを認めることができ、この認定を覆すに足りる証拠はない。

(五)  以上に認定したところを要約すると、昭和四七年六月四日の朝刊第七版帯および第八版帯においては、明和労組のストライキの実施により明和産商の従業員の荷扱い業務に関する労務の提供が全面的に拒否されることが明らかになったため、被告は、被告会社の発送部の職制に指示して自ら荷扱い業務を行なおうとしたところ、明和労組の組合員および支援の外部団体員らが、AカウンターおよびBカウンター上でスクラムを組みピケを張り、新聞の梱包のバンドの隙間にビラを挾むなどして、被告の職制による荷扱い業務を阻止するなどの態度に出たため、その荷扱い業務は相当に混乱したこと、そして、その結果、被告の新聞発送業務には、新聞の梱包の荷台外への落下、積み残し、誤送、紛失またはトラックの増車などの支障や損害が生じたこと、なお、明和労組の組合員および支援の外部団体員らの右ピケ等の行為の一部は、いわゆる平和的説得の範囲を越えたかなり強力なものであったことを認めることができる。

(六)  そこで、さらに原告の昭和四七年六月四日の行動についてみるに、原告が同日午前一〇時から午後五時まで被告会社で勤務したこと、午後六時三〇分過ぎごろからAカウンター付近で明和労組の組合員らによるピケの様子を眺めていたこと、午後六時五〇分ごろからAステーションで開かれた集会に参加して、明和労組のストライキを支持する挨拶をしたこと、午後八時五分ごろから同四五分ごろまでの間外部団体員らとともにBカウンター八番積込口のミニコン付近でスクラムを組み、ピケを張ったこと、その間、ミニコン上を新聞の梱包が流れてくると、結束用のバンドの隙間にビラを挾んだことは、当事者間に争いがなく、そして、これらの争いのない事実と、≪証拠省略≫を総合すると、原告は、同日午後六時三〇分過ぎごろAカウンター付近に出かけ、その後、被告が抗弁第3項の(四)の(1)ないし(3)において主張するところとほぼ同一内容の行動をとったことを認めることができる。しかしまた、≪証拠省略≫によれば、原告は、その間、明和労組の組合員および支援の外部団体員らの行動と別個の行動をとったことはなく、専ら、前日の三日に明和労組と支援の外部団体との合同執行委員会で決定された方針とスケジュールに従い、かつ、当日の明和労組の指揮と統制のもとに行動したものであることを認めることができ、この認定に反する証拠はない。

(七)  以上に認定したことから判断すると、原告の行動が被告の主張するとおり就業規則第七三条第一項第二号、第六号、第一三号および第一五号の規定する処罰事由に該当するか否かはともかく、外形的な事実関係自体としては、昭和四七年六月四日原告につき被告の主張するような行動があったことを認めることができる。

三1  ところで、原告は、再抗弁において、昭和四七年六月四日原告に被告の主張するような行動があったとしても、被告は、原告に対し、被告の主張するような処分を行なうことは許されないとして、いろいろ主張しているので、以下、原告のこれらの主張について判断する。

2(一)  まず、原告は、昭和四七年六月当時のAカウンターおよびBカウンターにおける荷扱い業務、とくに朝刊第七版および第八版に関する荷扱い業務は、専ら明和産商が被告から請け負っていた業務であるから、被告の職制が明和産商に代ってその業務を行なっているところを明和労組の組合員および支援の外部団体員らがスクラムを組みピケを張るなどして妨害したとしても、被告の業務を妨害したことにはならないと主張している。そして、当時AカウンターおよびBカウンターにおける朝刊第七版および第八版に関する荷扱い業務を専ら明和産商が被告から請け負っていたことは、当事者間に争いがない。

(二)  そこで、原告の右主張について判断するに、およそ特定の業務について請負契約を締結し、注文者が請負人に対しその業務の実行を委託している場合であっても、特約その他特段の事情のないかぎり、注文者は、請負人に対し、請負人が請負業務を履行するに当たってはこれを妨害せず、かつ、請負人がその業務を完成した場合には約定の代金を支払う義務を負うにとどまり、請負人またはその従業員に対して、右義務以外の義務を負うものではなく、注文者が右義務に違反せずこれに牴触しない範囲において請負業務と同一または同種の業務を自ら行ない、または、第三者に委託して行なうことは、全くの自由であると解すべきである。しかも、昭和四七年六月当時明和産商が被告から請け負っていた荷扱い業務は、前記のとおり、ミニコンを通ってAカウンターおよびBカウンターに流れてくる新聞の梱包をトラックの荷台に整理して積み込む業務であり、したがって、被告の新聞発送業務の過程においてそれを円滑、確実ならしめるために行なう補助的業務にすぎないのであるが、被告の新聞発送業務は、前記認定のとおり、詳細に定められた時間表に従って行なわれる業務であり、とくに朝刊第七版および第八版に関しては国鉄の上野駅または隅田川駅における所定の列車の発車時刻に間に合わせなければならない業務であるから、それを円滑、確実ならしめるために行なう荷扱い業務も、新聞発送業務に合わせ、極めて制限された時間内に行なう必要があるのであって、特定の日付および版の朝刊ないし夕刊に関する荷扱い業務を所定の時間内に行なわず、これをいつまでも遅らせて行なうということは許されないのみならず、特定の日付および版の朝刊ないし夕刊の梱包を積載したトラックがAステーションおよびBステーションから出発し、同所における被告の新聞発送業務が終了してしまえば、もはやその朝刊ないし夕刊に関する荷扱い業務を履行すること自体が不可能になってしまうのである(かくして、明和産商が請け負っていた荷扱い業務は、特定の日付および版の朝刊ないし夕刊に関する荷扱い業務ごとに限定して見ると、極めて厳格な確定期限付債務としての性格を有する業務であったというべきである。)。したがって、明和産商が特定の日付および版の朝刊ないし夕刊に関する荷扱い業務を所定の時間に履行しないことが明らかである場合には、被告が自らまたは第三者に委託してその荷扱い業務を行なうことは全くの自由であり、これを行なっても、何ら請負契約に基づく被告の義務に違反したり牴触したりするものではないというべきである。そして、以上の結論は、明和産商が特定の日付および版の朝刊ないし夕刊に関する荷扱い業務を所定の時間に履行しない原因がその従業員のストライキによるものであるか、その他の事情によるものであるかで区別しなければならない理由はない。

(三)  なお、AカウンターおよびBカウンターのメインベルトとミニコンの間にガラススクリーンが設置されていたことは、当事者間に争いがなく、≪証拠省略≫によれば、右ガラススクリーンは、明和産商が荷扱い業務を行なっている場合には、一応被告の従業員の作業場所と明和産商の従業員の作業場所との仕切りとなっており、被告の従業員は通常その外側に出て業務を行なうことはなかったことが認められる。しかしながら、右各証言によれば、右ガラススクリーンの外側にあるトラックステーションも被告会社の社屋の中に存在するのであり、同所におけるミニコンの運行管理、トラックの配車指示等の業務は常時被告自らが行なっていたこと、明和産商が荷扱い業務を行なっている場合でも必要があれば被告の従業員が自由にトラックステーションに立ち入っていたこと、したがって、右ガラススクリーンは被告と明和産商の作業場所の一応の仕切りにすぎなかったことが認められるのであるから、明和産商が荷扱い業務を履行しないことが明らかである場合においても、被告が右ガラススクリーンの外側のトラックステーションで荷扱い業務を行ないえない理由は考えられない。そして、本件の全証拠を検討しても、明和産商が荷扱い業務を履行しないことが明らかである場合にも、被告が自らまたは第三者に委託して荷扱い業務を行ないえない特約その他の特段の事情があったことを認めるべき証拠はない。

(四)  そうすると、本件で問題になっている昭和四七年六月四日の朝刊第七版ないし第一三版に関する荷扱い業務については、前記のとおり、明和労組が右業務につき全面ストライキを実施することを決定し、かつ、明和労組の委員長が被告の発送部長に対しその旨を通知したことにより、明和産商がこれを所定の時間に履行しないことが明らかになったというべきであるから、被告がその職制に指示して右荷扱い業務を行なったとしても、それは、全くの自由であって、明和産商との請負契約に基づく被告の義務に違反したり牴触したりするものではないというべきである。したがって、右荷扱い業務は専ら明和産商が請け負っていた業務であるということだけから、被告の職制がその業務を行なっているところをピケを張るなどして妨害しても、被告の業務を妨害したことにはならないという原告の主張は、その理由がないといわなければならない。

3(一)  次に、原告は、昭和四七年六月当時のAカウンターおよびBカウンターにおける荷扱い業務が、明和産商等の業務であると同時に、被告の業務でもあったとしても、同月四日の朝刊第七版帯および第八版帯において被告の職制が行なった荷扱い業務は明和労組の明和産商に対するストライキへの介入行為(スト破り行為)であったから、明和労組の組合員および支援の外部団体員らがピケを張るなどしてこれを阻止した行為は明和労組の争議行為として正当な行為であり、したがって、これを支援するためそのピケ等に参加した原告の行為も何ら違法なものではないと主張している。

(二)  そこで、原告の右主張について考察するに、まず、被告が、昭和四七年六月四日の朝刊第七版および第八版に関する荷扱い業務を明和産商との請負契約に基づく被告の業務に違反したり牴触したりすることなく適法に行ないえたものであることは、前記判断のとおりであるし、また、本件の全証拠を検案しても、被告ないしその職制が、意識的に、明和労組のストライキに介入し、明和産商を支援する目的をもって、右荷扱い業務を行なったことを認めるべき証拠はない。却って、≪証拠省略≫によれば、被告は、明和労組のストライキの実施により明和産商が右荷扱い業務を履行しないことが明らかになったため、被告自身の新聞発送業務に支障が生じるのをおそれて、その職制により右荷扱い業務を代行しようとしたものにすぎないことが認められる。そうすると、このかぎりにおいては、原告の主張は理由がないというべきである。

(三)  しかしながら、被告が意識的に明和労組のストライキに介入する目的をもっていなかったとしても、そのことが、第三者、とくにストライキを実施している明和労組の組合員および支援の外部団体員らに明らかになっていたか否かは別個に検討するを要する問題である。そこで、さらにこの問題について検討するに、≪証拠省略≫を総合すると、被告は、明和産商に荷扱い業務を請け負わせる以前に、明和産商の前身である有限会社井上商事ないし有限会社明和産業に対し荷扱い業務を請け負わせていたが、被告は、当時、それらの会社の従業員の労働組合がストライキを実施した際に何回にもわたり、それらの会社に対し、スト破り要員(スキャッブ)を集めて荷扱い業務を行なうよう要請し、これを行なわせた前歴があること、これに対しては、労働組合が強く抗議し、それらの会社に、スト破り行為を行なわないことを約束させたり、謝罪文を提出させたりしたことがあること、明和産商が被告から荷扱い業務を請け負うようになった後も、明和労組のストライキ実施の際に、被告の職制らがストライキに介入したとして、明和労組がしばしば明和産商および被告に抗議したことがあること、以上のような事情から、明和労組は、昭和四七年五月一七日以降四回にわたるストライキを実施するに当たっても、被告によるスト破り行為の行なわれることを非常に警戒していたことが認められる。しかるに、本件で問題になっている昭和四七年六月四日の明和労組のストライキ実施に際しては、前記認定のとおり、被告は、明和労組の委員長からストライキ実施の通知を受けるや直ちに、予め待機させていた被告会社の職制をAステーションおよびBステーションに赴かせ、荷扱い業務を代行するよう指示しているのであるが、本件の全証拠を検討しても、被告が右のような措置に出るに当たり、被告は、自己の新聞発送業務に支障を生ぜしめないため、明和産商とは無関係に、荷扱い業務を行なうものであって、明和労組のストライキに介入する目的をもっていないことを、事前に、明和労組に説明するなどして、そのことを明和労組の組合員らに周知せしめる方法を講じていたことを認めるに足りる証拠はない。そして、被告の右意図がその荷扱い業務の外形などから明らかになっていたことを認めるべき証拠もない。そうすると、被告が昭和四七年六月四日の朝刊第七版および第八版に関する荷扱い業務を行なうに当たり、明和労組のストライキに介入する目的をもっていなかったとしても、そのことが明らかでないため、明和労組の組合員および支援の外部団体員らが、前記のような過去の経過からして、被告の職制による右荷扱い業務の代行を明和労組のストライキへの介入行為であると信じ、これを阻止すべきであると考えたとしても、無理からぬ点があったといわなければならない。

(四)  のみならず、本件については、さらに次のような重要な問題がある。すなわち、ストライキという争議行為の性質から見て当然のことながら、明和労組が、前記のとおり、明和産商に対し賃料の値上げ等を要求する手段としてストライキを実施したのは、そのストライキにより明和産商が被告から請け負っている荷扱い業務の履行を不可能ならしめ、その効果として、明和産商が被告から請負代金の支払いを受けられないようにして、明和産商に経済的打撃を与え、もって、賃料の値上げ等の要求を実現しようとすることに主眼があったものというべきである。しかるに、被告は、以前から、明和労組のストライキにより明和産商が被告から請け負っている荷扱い業務が履行されなかった場合においても、何ら請負代金を減額することなく、明和産商に対しその全額を支払ってきたこと、昭和四七年六月四日の明和労組のストライキの場合にも、被告は、これまでと同様、明和産商に対し請負代金の全額を支払っていることは、当事者間に争いがない。そうすると、被告の右のような請負代金全額の支払いの結果、明和労組は、以前から、また、昭和四七年六月四日のストライキの場合にも、折角重い負担を払ってストライキを実施しながら(明和労組のストライキの際に、その組合員である明和産商の従業員が明和産商から賃金のカットを受けたことは、弁論の全趣旨に照らして明らかである。)、明和産商に対し所期の経済的打撃を与えることができず、ストライキの実効性をほとんど減殺されてしまったことになるといわざるをえない。しかも、被告は、明和労組のストライキにより明和産商の荷扱い業務が履行されなかった場合にはこれに対応する請負代金を支払う義務のないことを十分に知っていながら、明和産商に対し右のとおり請負代金の全額を支払ってきたものであることは、弁論の全趣旨によって明らかである。そこで、以上のような事実関係から見ると、被告自身がその及ぼす効果を明確に認識していたか否かはともかく、被告は、実質的には、明和労組に対するスト破り行為と目すべき行為(しかも、効果的には、スキャッブの提供よりも強力な行為である。)を行ない、そのストライキの相手方である明和産商を支援してきたものであって、もはや明和産商と無関係な純然たる第三者の立場に立っていたとはいえないものと解すべきである。

(五)  他方、前記認定のとおり、原告は、昭和四七年六月四日、被告会社での勤務の終了後、午後六時五〇分ごろからAステーションで開かれた明和労組の組合員および支援の外部団体員らの集会に参加して、明和労組のストライキを支持する挨拶をし、午後八時五分ごろから同四五分ごろまでの間外部団体員らとともにBカウンター八番積込口付近でスクラムを組み、ピケを張り、ミニコン上を流れてくる新聞の梱包のバンドの隙間にビラを挾むなどの行為をしたものであるが、その間、明和労組の組合員および支援の外部団体員らの行動と別個の行動をとったことはなく、専ら、前日に明和労組と支援の外部団体との合同執行委員会で決定された方針とスケジュールに従い、かつ、当日の明和労組の指揮と統制のもとに行動したものにすぎない。しかも、原告がピケ等に参加したのは、朝刊第八版帯の約四〇分間にすぎない。したがって、昭和四七年六月四日明和労組の組合員および支援の外部団先体員らが実施したAカウンターおよびBカウンターにおけるピケその他の行動に多少の行きすぎがあり、それがいわゆる平和的説得の範囲を越えたものであったとしても、これに途中から支援者の一人として参加したにすぎない原告自身の行為の違法性と責任をそれほど大きく評価するのは相当でない。

(六)  以上に認定、考察したところを総合して判断すると、原告の昭和四七年六月四日の行動をめぐる被告と原告との関係は、実質的には、就業規則の規定がそのまま適用されるべき使用者と従業員との関係であったというよりはむしろ、明和産商と明和労組との労働争議における明和産商の支援者と明和労組の支援者との関係であったというべきであるから、原告の右行動が外形上就業規則第七三条第一項第二号、第六号、第一三号および第一五号の規定するところに該当するとしても、これらの規定を安易に適用して原告を処罰することは相当でなく、その適用は行為の違法性の大きい場合などに限定するのが相当である。のみならず、仮に原告の右行動につき、就業規則の右各規定を適用することができるとしても、以上に認定したような事実関係のもとにおいて、被告が原告に対し一か月間の停職処分という非常に重い処分を行なうことは、衡平の観念に照らして、著しく失当であるといわざるをえない。したがって、被告が原告に対して行なった停職処分は、結局就業規則の右各規定の適用を誤ったものであって、その効力を生じないものというべきである。

四  そうすると、被告が原告に対し、一か月間の停職処分を行なったのに伴ない、それが有効なものであることを前提としてなした減給処分も当然に無効であって、被告は、原告に対し、減額分の給与金二万五九二六円を支払う義務を負うものというべきである。

五  よって、原告の本訴請求はその理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。なお、仮執行の宣言はその必要がないと認められるので、この宣言を求める原告の申立は却下する。

(裁判長裁判官 奥村長生 裁判官 小野寺規夫 裁判官林豊は、転補のため、署名、捺印することができない。裁判長裁判官 奥村長生)

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